法務局職員による印紙の業務上横領について

会計検査院の平成23年度会計報告の中に、面白い内容を見つけました。

法務省に関する「不当事項」として、「職員の不正行為による損害が生じたもの[千葉地方法務局佐倉支局、名古屋法務局刈谷支局]」が報告されています。

抜粋すると、千葉地方法務局佐倉支局において、「登記官市原某が、登記申請の受付等の事務に従事中、平成19年6月から22年3月までの間に、窓口で受け付けた登記申請書に貼付されていた収入印紙について、消印をせずに剥ぎ取り、登記済みの他の登記申請書から剥ぎ取った消印済みの収入印紙を貼付し、その上から更に消印をするなどして、収入印紙19,090,000円分を領得したものである。なお、本件損害額は、24年9月末現在で補填が全くされていない。」とあり、名古屋法務局刈谷支局において、「登記専門職髙野某が、登記申請の受付等の事務に従事中、平成21年7月から22年9月までの間に、オンラインにより登記申請が行われ、登録免許税が収入印紙により納付されたものについて、当該申請のために納付された収入印紙に消印をせず、端末から出力した納付情報を、収入印紙により納付されたものではなく、振込等により電子納付されたかのように偽造して、収入印紙74,517,900円分を領得したものである。なお、本件損害額については、24年9月末までに29,878,745円が同人から返納されている。」とあります。

これらはおそらく業務上横領罪にあたると思われ、その被害額の大きさや被害弁償が全くされていない(又は半分以下しかされていない)ことからすると、両者とも実刑になったのではないかと思います。

興味が沸いたのでさらに調べてみると、もっと大物がいました。「東京法務局に勤務していた元職員が2006年から約10年間にわたり、登記申請書に貼り付けられていた総額約4億7千万円分の収入印紙を着服していたことがわかった。同法務局が15日、発表した。警視庁麴町署に業務上横領の疑いで刑事告発しているという。同法務局によると、天野直樹元事務官(63)。同法務局の民事行政部や墨田出張所などで勤務していた06年1月~16年12月、計2778件の登記申請書に登録免許税として貼られていた収入印紙を、消印を押さずにはがして横領した。別の申請書から押印済みの収入印紙を切り取り、差し替えていたという。同法務局は昨年12月、内部調査で不正が判明したとして、天野元事務官を懲戒免職処分とした。その後の調査で過去10年間、同様の行為を繰り返していたことが判明。元事務官は調査に対し、不正に入手した印紙を金券ショップで換金したことを認め、「借金の返済やギャンブルに使った」と説明したという。」(朝日新聞デジタル2017年9月の記事)。これは確実に実刑でしょう。

収入印紙の横領というのが、法務局で繰り返し行われており、極めて模倣性の高い犯罪形態であることが分かります。明らかになっていないだけで、他にも印紙を横領している職員はいっぱいいるのでしょう。

私は先日、印紙や証紙はいらないという記事を書きましたが、上記の各事件は、この主張をさらに説得的にするものといえます。つまり、現金よりも、証紙や印紙の方が小さくて軽いために、横領を誘発していることが明らかです。また、印紙制度を採用する場合、現金を受領する窓口と、印紙を受け取る窓口が別になるわけですから、納められた印紙の価額と国庫に入った現金の額が一致するかどうかを照合することができないわけです。このことから、印紙が横領されていても、これが発覚しにくくなっています(実際上記の4億7000万円横領事件でも、10年以上発覚しなかったのです)。

この点について、印紙ではなく現金での納付を認めれば、受領した現金が何者かに横領された場合、現金が減少するためすぐに発覚するので、横領は極めて困難になるはずです。もっとも、現金よりも電子納付の方がより横領防止に効果的であることは言うまでもありません。

このように、職員による横領防止という観点からも、印紙(証紙)制度を廃止した方がよいことは明らかです。

それにしても、「別の申請書から押印済みの収入印紙を切り取り、差し替えていた」ことが、なぜ10年も発覚しなかったのかは、理解に苦しみます。